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日本は昔から火葬の国か
現在の日本の葬儀では、どんな宗教や宗派であっても、また、無宗教という人であっても、死者の遺体は火葬に付される場合がほとんどです。
1993年の統計では全国平均で97.9%の死者が火葬にされています。特に人口が密集し、墓地面積が不足している東京都では、ほぼ100%が火葬によって葬られています。
そんなところから、火葬は仏教と結びついた日本古来の伝統的な葬法であると考えられている面もあります。
たしかに欧米の主要先進国の火葬率とも比較した資料でも、我が国の火葬率は断然高い値を示しています。
ヨーロッパ諸国のなかで高い火葬率を誇っているのは、チェコとイギリスで、1993年においてそれぞれ70%をわずかに超えているといったところです。
これに対して、フランスでは10%弱、スペインでは5%弱、イタリアにいたっては実に1.5%にすぎません。
カトリック教徒の多い国々では、まだまだ火葬率は低いようです。
ここには、死後の身体の復活を信仰する欧米のキリスト教習俗と、我が国との宗教的な風土の違いがあると考えられてきました。しかし、日本においても近代以前は必ずしも火葬が主流ではなかったことは、案外忘れ去られています。
日本における火葬の歴史は約1300年ほど前にさかのぼるといわれており、そこには仏教の影響があったというのがほぼ定説となっています。
しかし、当時火葬を受け入れていたのは、天皇家や貴族あるいは一部の僧侶たちだけであり、ほとんどの庶民は土俗的な葬儀形態を保っていたようです。
その後、仏教は民衆レベルにまで除々に浸透していきますが、それでも庶民の間では土葬のほうが一般的でした。
こうした状況を一変させたのが明治政府の政策でした。それまでは、各地方、各地域の文化特色にしたがって行われていた死体の埋葬に、直接的、間接的に政府が介入していくようになります。例えば明治政府は、明治の初年頃には火葬を突然禁止し、その2年後には解禁するという混乱した状況を呈しますが、これなどは庶民の風習に近代国家が直接に介入しようとして失敗した例です。
しかし、その後政府が埋葬地を限定し届け出制にした(現代の「墓地、埋葬等に関する法律」以下「埋葬法」という、につながる)ことや、人口の密集した都市部で、公衆衛生上の問題から土葬が禁止されたことなどから、都市部を中心に火葬場が次々と建設され、火葬率は除々に上昇していくもとになります。
そうはいっても1900年頃には火葬率は30%ほどにすぎませんでした。その後、1950年には54%、1960年には63.1%,1970年には70.2%,1980年には91.1%と経済の高度成長と軸を一にするかのように急激に上昇し、1994年にはついに98.3%に達しました。このようにみてきますと、日本において全国的に火葬が一般化したのは、やはり太平洋戦争後、特に生活の近代化が定着してからのことだということがわかります。
また世界の各国でも、近代化の進展とともに火葬率は除々に上昇しているようです。宗教的な要因は無視しえないとしても、社会の近代化と火葬率の上昇は関連しあっていると考えられます。その意味では、火葬という点に関しては、日本は世界でもっとも近代化の進んだ国であるということになります。
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