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残された人びとの死の受容
以上のように十分な時間と条件に恵まれた場合、死にゆく人びとはさまざまな心理状態を経過して死を受容できる場合があります。
これに対して、残された遺族や周囲の人びとはどのようにかけがえのない人の死を受容するのでしょうか。
精神医学者の野田正彰氏は、大事故で肉親を失った遺族の心理的回復経過を、「ショック」「死亡という事実の否認」「怒り」「回想と抑鬱状態」「死別の受容」という5段階でとらえています。
この図式は突発的な死を受け入れるための心理的プロセスについて説明したものですが、老いた肉親を看取る遺族の心理にも応用が可能なようです。
先ほども述べたように、「老い」というプロセスには、必然的な終着点として「死」が約束されています。
したがって肉親との長いかかわりのなかでは、はじめは相手の老いにショックを受けたり、否認したりもしますが、ついにはやがてきたるべき死をも含めて、相手の老いを受け入れていかざるをえません。
この場合には、肉体的な死の訪れの前に、すでに死の受容が近親者のなかでは部分的に準備されているといえるかもしれません。
結局のところ「死にゆく人」と「残された人びと」との間には、決定的な違いがあります。
「残された人びと」は、生き続けなければならないということです。他者の死をうまく受けとめることができた場合には問題がありません。
だが、これがうまくいかないと、受容のために心理過程が停滞してしまい日常生活になんらかの適応障害が生じることもあります。
愛する人の死は、事前にある程度予測されたものであっても、しばしば悲嘆や心の痛みをもたらします。そしてこれは病気ではなく、自然な心の現象です。
残された人の悲しみや思いやり、死と向かいあいいつつもそれを受容させていくための社会的、文化的仕掛けが葬送儀礼の本来の役割なのではないでしょうか。
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